毎日麺類

19歳。僕の話と映画感想の両方。ネタバレします。

『アフターサン』

6月2日の台風の中で『アフターサン』を見ました。映画を普段見ない友達と一緒に行ったら、その友達が爆睡してて感想が全く話せなかったのでここに書きます。

 

『アフターサン』に関しては映画の感想よりも、映画を見て思い出した僕と父のエピソードについてを書いていきます。純粋な映画の感想を求めている方がいたら、その期待には応えられないのでごめんなさい。

f:id:sennburitya:20230608101247j:image

とは言っても少しは普通の感想も言います。

この映画で印象的なのは色味で赤が濃く、海は緑色。今目の前に広がっている景色というより美化された思い出の景色だというのが伝わります。

 

テープを再生する音から始まり20年前の映像が流れる感じはNew Jeansの「Ditto」や岩井俊二を想起させられました。「Ditto」のMVは去年の映像表現の中でも特に好きなのでいつか書きたいです。

f:id:sennburitya:20230608105622j:image

 

ここから本題です。この映画は11歳のソフィと31歳の父のバカンスを、20年後のソフィが思い出すというストーリーです。僕は映画で絶対に泣いてしまうシーンが2つあります。それは、

①親が優しい

②親が厳しい

この2つです。例を挙げると『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』、『はちどり』そして、①と②の両方が入っている『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』です。

f:id:sennburitya:20230608122109j:image

 

もちろん『アフターサン』でも泣きました。大号泣です。でも他の映画と違ったことがあります。それは、本編中に泣いたのではなくエンドロールで泣いてしまったのです。それは何故かというと、退屈なシーンが多かったからです。

 

決して貶したい訳ではありません。寧ろこの映画で1番好きなのは退屈なシーンが多かった所です。退屈なシーンってとても贅沢なことだと思います。ブログで書いた『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は90分の中にハイスピードで物語が進んでいきます。カット割もめちゃくちゃ早いです。退屈なシーンなんて1秒もないです。『カモン カモン』はマリオと比べたら、ゆっくりなスピードですが、カメラを固定するのではなくてレールを敷いてカメラを動かしたりしています。退屈させない工夫をしているのです。

 

しかし、アフターサンはカメラ位置を完全に固定させて動きをただただ捉えているカットが多いです。父が海の方へ向かって帰ってこないというシーンは特に印象的ですよね。あと泣いている背中。

f:id:sennburitya:20230608141821j:image

学校で映画を制作していると、いかに観客を退屈させないかという思考が定着しちゃうんですよね。わざと意図的に退屈だと思われちゃうような長回しのカットを撮ろうとすると止められてしまうんです。映画って芸術の面よりもビジネスだったり大衆娯楽の面が強いので、「退屈させない!」というのが常識というかそういうのがあるんです。実際、一緒に見にきた友達は寝ちゃうわけだし。

 

だから、見ている最中に「いいな〜、こういうの作りたいな〜」なんて思ったりしてました。

長久監督のTwitterでこんな投稿があります。

「退屈なシーンは、その間、自分の人生のことなどに思いを巡らせることができるので、それこそが映画の意義とも言えます。」

 

こういうことです。全部言ってくれました。

つまり僕は『アフターサン』に退屈なシーンが多かったおかげで、自分の人生を振り返れたのです。父との思い出をね。

f:id:sennburitya:20230608144253j:image

 

 

僕の父は変わった人で、めちゃくちゃ差別主義者だし暴力的でマッチョイズムの塊みたいな人でした。だから、あまり楽しい思い出はないです。もうあまり会えなくなってしまいましたが、一緒に住んでいた頃は父の思想や態度が大の苦手でした。父は僕のことを認めてないし、いつも貶してくる。だけど5年に一回くらい裏で褒めてくれるんですよ。僕それが本当に嬉しくて嬉しくて。エヴァンゲリオンのシンジくんとゲンドウの関係性みたいな感じ。一回だけ褒められて嬉しくなるシーンありましたよね。

 

この映画をみて「あー、父との思い出全然ないなー」って思い巡らせていたら、あっという間にあの最高のラストのダンスシーン。クイーンとデヴィッド・ボウイの曲が最高すぎますよね。そしてエンドロール。そこで急に思い出したんですよ。最高のやつ。

f:id:sennburitya:20230608142938j:image

 

僕が高校1年の時に作曲することにハマってたことがあったんです。GarageBandっていうAppleが出している無料のやつでポチポチ、ダサすぎる曲を作っては友達や恋人に聴かせてたりしてました。その時に一曲、かなりの力作が完成させることができたんです。ゲームのピクミンで流れていそうな曲です。それを友達や恋人に聴かせて「なんか気が狂いそうになるね」とか言われてニヤニヤしてたら、何故か父に聴かせたくなったんです。

 

父に話しかけることさえ、心臓バクバクになってしまうのですが勇気を出して部屋に呼びました。そしてiPadから僕が作った曲を聴かせたら、笑って貶してくれました。「イントロがダサすぎる」って。けど最後まで聴いてくれたんですよ、真剣な顔で。それを僕はエンドロール中に思い出しちゃって、「ふぐふぐ」みたいな音を出しながら大号泣してしまいました。

その思い出は確かに赤の色味が強いし青が少し緑ぽくなってる気がする。愛おしい思い出。

 

いつも強気な父がお風呂場で泣いてる声が聞こえてきたり、今思えば僕から父に近づこうとしたらバラバラになってないのかなーとも考えたりしちゃいました。これ以上、書くと長すぎるのでこの辺にしておきます。

f:id:sennburitya:20230608151740j:image

 

とにかく、もう一回見たい!

好きな映画でした。